06304 友人の依頼で「売上アップにつながる写真の撮り方ガイド(飲食店編)」についてコメントしました
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とてもいいガイドだと思います。料理撮影の基本がわかりやすく述べられています。
コロナ禍でwebに掲載する写真のクオリティが売上を左右する飲食店の撮影ガイドとして日本政策金融公庫が企画、発行したもの。基本的に大切なポイントが解説されているので、一般の人でも真似すればいい料理写真を撮影できそう。BLOGOS記事に「「飯テロの勉強になる」としてネット上で話題となっている。」と紹介されているのも納得です。 https://flic.kr/p/2mKYgMV https://live.staticflickr.com/65535/51693416627_1af31c3ec7_3k.jpg
ガイドで言及されている要点は、料理写真を撮影するプロならどれも「定石」。それをたった9枚のPDFで一般の方々にもわかりやすく伝えているのがこのガイドの素晴らしいところ。
光の方向は半逆光がベスト(8ページ)
レフ板で手前の影を薄くする(9ページ)
望遠で撮る(12ページ)
カメラの位置は斜め45度(12ページ)
SNS用には料理をアップで(12ページ)
光の質は散光で(13ページ)
食事シーンを想起させるお箸も一緒に写す(15ページ)
写真で伝えたいことを明確にする(18ページ)
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一方、BLOGOS記事には、ネット上でこのガイドが「飯テロの勉強になる」と評されているとあります。でもそう考えるのはちょっと早計。このガイドはあくまでもレストランのオーナーさんとか料理人ご自身が実践できる手法を紹介しているもの。その飲食店に来店した客が同じことをできるかというと、色々と制約や限界があります。
例えばガイドには「部屋の電気を消す」(9ページ)とありますが、いくら「映え」写真を撮影したくても、客がレストランの室内灯を消すのは難しい。店主に依頼して消していただいたとしても、営業中の店内で他の客に迷惑をかけることなく瞬時に適切なライティングを組むのはプロでも難しい。そもそもプロの撮影はお店の営業時間外に最適な環境を作って行われています。このガイドの作例写真もおそらくそうだと思います。なおshio.iconの場合は少しでも明るい方がいいしそのお店の雰囲気も大切にしたいので、基本的に店内の照明は点灯したまま撮影します。
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ではお店の営業時間中にまったく普通に来店した一般人がお料理を綺麗に撮影するにはどうしたらいいか。
ポイントは3つ。
0. お店の円滑なオペレイションを最優先する
1. お店の人にきちんと挨拶&お礼を伝える
2. もし可能なら明るい座席を選ぶ
3. 料理とカメラとの距離によって作画をコントロールする
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0. お店の円滑なオペレイションを最優先する
お店のオペレイションが最優先です。
スタッフが注文をとったり配膳するための移動といったお店側の動きを妨げないよう細心の注意を払います。他のお客様への配慮も同様。当然のことですが、昨今、写真撮影者のマナー(お行儀)が各所で話題、問題になっていますので、一応書いておきます。
1. お店の人にきちんと挨拶&お礼を伝える
撮影されたい店主も撮影されたくない店主もいます。コミュニケイションが大切。
入店したら挨拶をしたり会話を交わし、注文するのも楽しく対話。
お料理がテーブルに供されたら、たとえば「わぁ、綺麗なお料理ですね。美味しそう!! 撮影させていただいてもよろしいですか?」「ありがとうございます。どうぞ、どうぞ!!」といったやりとりで、撮影が店主さんのご意向に沿うことを確認してから撮影します。
「撮影などしてないで温かいうちに早く食べてほしい」、「一見さんが増えるからSNSで拡散されるのは嫌い」など、色々な理由で撮影を望まれない店主さんもいらっしゃいます。そのような場合shio.iconは撮影しません。撮影してもいいけどネットにアップしないでほしい、というご意向があれば、それを守ります。
2. もし可能なら明るい座席を選ぶ
もし座席を選べるなら、できれば明るい座席が望ましい。
でもそこで無理は禁物。わがままを言わない。お店が「こちらへ」とおっしゃるなら黙ってそこに座ります。お店の円滑なオペレイションが最優先。
どの座席でもどんな状況でも写真は写せます。自分に与えられた状況、環境の制約の中でそれを最大限生かして撮影するのが面白さの一つ。
3. 料理とカメラとの距離によって作画をコントロールする
最も大切なのはお料理とカメラとの距離(撮影距離)。
作画や見栄えに影響を与える大きな要素は、被写体との距離です。
もし迫力のある見栄えにしたいなら、思い切り近づいて写します。
例えば下の写真は松屋の牛めし(頭の大盛り)に10cmほどまで近づき、標準(1倍)レンズ(26mm相当)で撮影したもの。実は友人から依頼があった後、作例写真を作るために松屋に行って撮影したものです。
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手前にある牛めしの丼がどーんと大きく、奥にある卵や味噌汁のお椀は小さい。被写体に近づけば近づくほど、カメラから手前の被写体までの距離と、カメラから奥の被写体までの距離との相対的な差(比率)が大きくなりますから、手前の被写体ほどより大きく、奥の被写体ほどより小さく写ります。いわゆる「遠近感が強調される」のです。遠近感を強調したいなら被写体に近づくべし。
この場合、カメラを近づけることでカメラから丼までの距離とカメラからお椀までの距離との比が大きくなり、遠近感が強調されて、迫力を演出できます。丼自体も、手前側と奥側で遠近感が強調された結果、円形が手前に引き伸ばされたような形に歪んでいます。その歪みも迫力を演出します。
逆に被写体との距離が離れる(撮影距離が大きくなる)ほど、カメラから丼までの距離とカメラからお椀までの距離との比が1に近づきます。だからそれを写した写真内の各被写体間に、見た目の遠近の差が小さくなり、ありのままの姿、見たままのサイズ感に近く写るようになります。端正な描写を得られるのです。
ですから、もしガイドにあるような端正な見栄えにしたいなら、料理からカメラを離す(撮影距離をとる)。できれば50〜60cmくらい離れて撮影したい。それはちょうど、座席に座った人の目の位置から料理までの距離です。食べる人の目の位置から見たままの見栄えになります。
こんな感じです。
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その距離からお料理を撮影するには「中望遠」と呼ばれる画角のレンズで写すと、お料理がうまく写真に収まります。スマホですと、iPhone 13 Pro / iPhone 13 Pro Maxの「3倍」(77mm相当)あたりがちょうどいい。上の写真は、iPhone 13 Pro Maxの「3倍」で撮影したものです。 並べてみましょうか。
1枚目が近距離(約10cm)で撮影、2枚目が目の位置(約50cm)からの撮影です。
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ずいぶん印象が違いますよね。
1枚目の円は歪んでおり、2枚目は4つの円がすべて真円に近い。2枚目の卵のお椀と味噌汁のお椀は1枚目より大きい。
ではもう1枚、見てみてください。下の写真、どんな印象でしょうか。
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先ほどの2枚目、「3倍」で撮影した写真とほぼ同じ印象なのではないでしょうか。
両者、並べてみましょう。
1枚目が「3倍」、2枚目は上の写真と同じ写真です。
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両者の見栄え、いかがでしょうか。レンズ(とセンサー)が異なるので、色味や画質の相違は無視してください。各丼やお椀の形、サイズの比率は両者ほぼ同じ。見栄えもほぼ同じです。
この2枚目の写真はどうやって撮影したか。
実は、1枚目の「3倍」で撮影したものとまったく同じ位置で、iPhone 13 Pro Maxの「1倍」に変更して撮影した下の写真から、中央部分を切り抜いた(クロップした)ものです。
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クロップした結果、画質は落ちます。画素数が元の1,219万画素(4032×3024)から133万画素(1334×1000)へと、ほぼ1/9に減っています(縦横それぞれ3倍の差があるので、面積的には9倍の差になります)。当然、両者の画質には相当な差が生じます。
一般に、レンズの画角によって描写が異なる、といわれます。被写界深度や前後のボケ方など、画角によって確かに描写が異なり、それが多様なレンズを使い分ける楽しさの重要な要素です。一方、遠近感やいわゆる圧縮効果といった、写真内の被写体相互間でサイズに差異が生ずることに起因する見栄えに関しては、本質的にカメラと被写体との距離に依存します。その結果、被写体を写真に収めるのに適した画角のレンズを選択して撮影するのです。それもまたレンズを使い分ける面白さの一つ。
撮影位置を変えずにズームして画角を変えても、(上述のとおり)写る範囲が変わるだけであって、見栄えは同じ。だから特に写真の初心者には、歩き回ったり身体を移動することによって撮影位置を前後させる(被写体との距離を変える)ことで変化する見栄えを感得しやすい単焦点レンズ(ズームしないレンズ)で練習することを薦めております。
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さてガイドの話に戻りましょう。
ガイドの作例写真は遠近感が強調されていない端正な見栄えです。写真に写っている四角いお皿がどれも(台形ではなく)綺麗な長方形です。料理から50〜70cmくらい離れて撮影したものと思われます。その距離から高画質で(クロップやデジタルズームではなくカメラの画素数をフルに使って)撮影するためには、クロップせずに料理をアップで写せる「中望遠」と呼ばれる領域のレンズを用いることになります。だいたいフルサイズのカメラでいう70〜105mmあたりのレンズです。
逆に、もしこれらの作例写真がスマートフォンで撮影されたものである場合、中望遠レンズが搭載されていない2年くらい前までのスマートフォンでは、50cmくらい離れて広い範囲を撮影して後からクロップするか、撮影時に(デジタル)ズームが必要です。どちらの場合も情報を取得できる画素数が1/9になるので、画質は落ちますが、(デジタル)ズームの場合はカメラ内で情報を補間して元の画素数の画像を生成しますので、その補間の演算が優秀な機種のスマートフォンなら比較的良好な絵を得られます。
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改めてガイドとその作例写真を見てみましょう。
掲載されている作例写真はどれもとても綺麗です。
はたしてこの作例は何で撮影したのだろうか、どのくらいの距離から、どんなレンズで撮影したのか、推理してみると楽しめます。「スマホで簡単!」(表紙)、「スマホで大丈夫!!」(4ページ)と書かれていますし、撮影風景でモデルさんが手に持っている機材は明らかにスマートフォン、というか(画像が加工されているものの)はっきり言ってiPhoneです。であれば素直に考えて、これらの作例もスマートフォン(iPhone)であるはずです。またモデルさんが構えているスマホからお料理までの距離はおそらく50〜60cm程度あることから、もしiPhoneなら、77mm相当の「3倍」で撮影できるiPhone 13 ProまたはiPhone 13 Pro Maxでしょう。
次に作例写真そのものを見てみます。PDF内の小さいサイズなのでわかりにくいのですが、作例写真の発色やコントラストから推しはかるに、スマートフォンではなく単体のカメラで撮影されたように感じます。撮影距離も、60〜70cmくらいあるのではないでしょうか。結構いいカメラで、中望遠の中でも長めの105mmあたりのレンズで撮影されたような印象を受けます。せっかく内容が素晴らしいので、このガイドを参考にして撮影にトライする読者のために、これらの作例をどんなカメラで撮影したのか、スマートフォンなのか一眼レフやミラーレス一眼なのか、加工しているのかいないのか、といった情報を付記していただけたらありがたいと感じました。
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shio.iconもレストランからご依頼いただき、お料理や店内を撮影する機会があります。例えばこんな感じです。
お料理を撮影する機会は比較的多く、少し昔の機材ですと、8年前、2013年10月31日に麻布のレストラン「TRON」(既に閉店しています)のクリスマスディナーを撮影した写真はこちら。
shio.iconが撮影している様子をお店のオーナーが写した写真を掲載してあるように、この時も一切ライティングなし、すべて自然光(あるいは室内光)のみ、手持ち撮影です。このうち、下記の写真が本記事冒頭の1枚。
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かなり水平近くから撮影しています。「斜め45度」という角度は基本ですが、高さのあるお料理はこうして水平に撮影したり、上のbar BOGAの写真にあるように真上から撮影したり、いろいろ。
定石などにこだわらず、自由に発想、自由に撮影。
それが写真の面白さだと思います。
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